ラベル

2013年6月29日土曜日

8つのボールから重さの違うボールを1個を識別せよ

ツイッターで次のようなものが流れてきた。
あなたは同じサイズのボールを8つもっています。
そのうち7つは同じ重さですが、1つはほかのものよりもわずかに重いです。
秤を2回だけ使ってこのわずかに重いボールを見つけるには
どうすればいいですか

入社試験・面接試験の奇問難問をまとめてみたぜ
ひと目で解けてしまった(8つの球を3,3,2にわけて測る)のだけれど、記憶によれば、この問題のオリジナルバージョンは求めるボールが軽いか重いかわからなかったはず。となると上述の問題とは異なる解法が必要。ただ、天秤をつかう回数が2回なのか記憶にない。どうだっけ。
まず上述の問の場合
  1. 3,3,2にわける
  2. 3と3で秤にかけて比較し(1回目)、釣り合えば残した2個のボールのどちらか(a)。吊り合わなければ、重たい3つの中にある(b)
  3. (a)の場合
    二つを比較し、重いほうが求めるボール(2回目)
    (b)の場合
    三つのボールのうち二つを比較し(2回目)、一致すれば残りの1個。吊り合わなければ重いほうが求めるボール
しかし、求めるボールが重いかどうかわからない場合、(a)なら二つまで特定できるけれど、その二つを比較するだけでは、重いほうか軽いほうかわからない。
そこで工夫をしよう。残りの6個は等しい重さのボールであることがわかっているのだから、そのうち1個と二個のうち1個を比較すれば、(b) のケースと同様なやりかたで特定できる。
  1. つまり秤にかけて(2回目)等しければ、秤にかけていない残りの1個が求めるボール
  2. 6個のボールから選んだものと、2個のうち1個が等しくなければ(2回目)、重くても軽くても後者が求めるボールである。
(b)の場合、重さがわかっているボールは量っていない2個だけで、求めるボールは6個の中に。問は6この内1個が重さが違うというレベルでとまっているように思われるかもしれない。 しかし3つにグループ分けしたという情報と重さが明らかになっている2個のボールは利用できる。

  1. そこで一回目にグループ分けした3つの組をαβと識別し、それぞれのボールをα(1,2,3)、β(1,2,3)と識別する。
  2. 天秤にのっている三つからα3とβ2、β3を取り除き、重さのわかっている2つをβグループに、β2をαグループに追加する(2回目)。
ここで分岐は次のようになる。

  1. α(1,2)とβ1のうちにあるのならば傾きはかわらない。
    →α1とα2で比較する[ただしαグループが置かれた場所にα1、βグループが置かれていた場所にα2を置く](3回目)
    →答えがα1なら最初の傾きが変わらず。α2なら傾きは変わる。β1なら釣り合う
  2. 2回目の計量に関与していないα3、β3のどちらかなら二回目の計量はつりあう。
    →α3と重さのわかっているボールを比較(3回目)
    →α3なら傾き、β3ならつりあう
  3. 2回目に場所が変わったβ2なら傾きがかわる
このように秤の左右性を考慮すれば少なくとも3回で特定できそうである。

2013年6月19日水曜日

木村秋則さんのじゃがいも栽培

木村秋則さんについて色々調べているとウェェと思うことが少なくありません。彼はホラ吹きだし、オカルト好きだし。

そんなわけで以下のような記述を見つけた時どうなんだろうと思いました。
デメターの有機栽培をチェックしていくと、ひとつ、決定的な要因が欠けていました。わたしはキッパリいいました。
「あなた方のジャガイモが小さいのは、土の温度が低いからです」
地中の温度を測って考える
実際にデメターの畑に穴を掘って温度を測ると、わずか10センチ掘っただけなのに地表面よりも8℃も下がりました。どんな野菜も冷たいところは嫌いなのに、その冷たいところに、深さでいうと10.5センチの地中にタネを蒔いたため、ピンポン球の大きさまでしか育たなかったのです。大規模農場でタネを蒔く場合、機械の都合でそのくらいの深さになってしまうわけです。

(中略)

わたしは、彼らが10~15センチぐらいの深さにジャガイモを植えたのに対して、5センチ掘っただけの浅いところに埋めました。浅く植えるのは機械では無理なので、すべて手作業ですが、土のなかの温度がどれほど大切かを知っていれば、それは当然です。
木村秋則さんの自然栽培

これは木村さんがヴィオディナミという一種の有機栽培の認証機関であるデメターに招かれてドイツに講演旅行した時の話です(ビオディナミについては後日)。自然栽培だからじゃがいもが小さくて当然だという、デメターに対して、木村さんは育て方が悪いと指摘したんですね。これをTLにつぶやいたところ、これを読んだ道良寧子さんが
バカだなぁ。
ジャガイモを浅く植えればソラニンを生成するのに・・・ https://twitter.com/doramao/status/344464371822522368
とかかれ、ごもっともと思ったわけです。(ソラニンについてはじゃがいものソラニン中毒についてをお読みください) 

なにか変わっていることをしているのかもしれないと思っていたのですが、浅く植えてもソラニンが出ない方法についてはわかっていませんでした。しかし先日木村さんの土の学校 をパラパラ見ていたら当該の記述を見つけました。私は(おそらく道良寧子さんも)はてっきり
サカタのタネオンラインショップ:じゃがいもを育てようより

こんな感じにして浅植なのかなと思っていたわけですが、全然違いました。上のイラストのじゃがいもの種芋は切断面を下にして、芽が上になるようにして植えていますが、木村式は逆に切断面を上にし、まず茎を下に伸ばすことで芋が生える茎が地中にもぐるようにしているとのこと。

つまり旧来のやり方では種芋から地上部までの土の中で芋ができるので、深く埋めざるえないのですが、種芋のしたに小芋がなるのなら浅く植えることができます。これなら浅く植えたのも納得です。

さらにこの技術すごーく雑誌現代農業ぽいとおもったので検索したところヒットしました。

月刊 現代農業>2012年4月号>●巻頭特集 技あり! 植え方でガラリッ ジャガイモ逆さ植え しかも覆土不要!植え付けも収穫もラク、ソウカ病に強い というそのものズバリどころか、さらに一歩上行く栽培技術が紹介されておりました。黒マルチを使って、さらに土の温度を高めるなどポイント高いですね。

なお上述の『土の学校』については、このじゃがいも栽培以外、チェーンを使った水田の除草技術くらいしか見るべきところが無いので、現代農業の記事「チェーン除草機どんどん進化中」のほうがためになります。

木村さんも技術を小出しにして講演商売するよりも、どんどん公開したほうがいろんな人が工夫をして新しい技術が生まれてくるのではないかと思いますし、そのほうが百姓として本望じゃないのかなと思います。

そんじゃーね。

2013年6月18日火曜日

書評『すごい畑のすごい土 無農薬・無肥料・自然栽培の生態学 (幻冬舎新書)』

映画『奇跡のりんご』の公開に刺激され、さまざまな方たちが木村秋則さんの自然栽培、とくにりんご栽培や生産物の安全性などについて、さまざまな議論を提出しています。

わたしもtogetterで、焼き畑農業研究者からみた木村秋則さんの農業についてというものをすでにまとめたものがあるので、興味があるかたはごらんください。

さて、いろいろ見ていきますと、数年前話題になった時には気づかなかったりんご農家によるコメントなども発見し、大変興味深いものもありました。とくに工藤りんご園話題の“無農薬りんご”についてに掲載されている、放置園のりんご写真は非常に興味深いもので、なんらかの地形条件・水条件さえ整っていたら真に無農薬・無施肥でも「商品にならないようなりんご」ならば十分に再現可能であるという重要な例だと思います。

しかし工藤さんは木村さんの書籍を十分に読んでいないのか、重要な点を見落としているように思えます。

それは木村さんは最初の10年間ほどりんごの無農薬・有機栽培を試みており、堆肥などを施肥していたということです。もちろんここでいう無農薬とは、木村さんの表現であり、食品(焼酎、にんにくなど)の農薬転用を試みていたということです。また大豆などをまき、緑肥にしようとしていたことも書かれているので、使用している農薬の種類をのぞけば、かなり畑に対して通常の農業に近い試みをしていたと言えるでしょう。また無農薬に転換する直前、年一回だけで薬を散布する減農薬を実践していたことも明記しています。このことは放置園のりんごとはまったく条件が異なっています。

つまり、10年くらいろくに花も咲かなかったというのは、「いろいろな試行錯誤をふくめた畑への介入」+「初期農薬の不使用」の賜物ということになります。おそらく30年以上前、当時は放置園というものがほぼなく、「ほっとけばろくでもない実がなる」という観察がなかったゆえの結果でありましょう。

(まあよくいえば。これ自体が堆肥等の有機肥料との差別化のためのモノガタリなのではないか、という疑いは晴れません)

しかし無農薬でりんごが作れるとして、商品価値を持ち、それなりに量を生産するにはなんらかの技術があり、そのための農学的な裏付けがあるはずです。そこで今年発売された以下の本を読んで見ることにしました。
著者の杉山氏はここ10年木村さんの畑の調査をされているそうで、奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録 (幻冬舎文庫)でもコメントをしていまた。

すでにツイッターでコメントしているのでもう一度書くのも気が引けますが、見事に肩をすかされました。木村さんの農園についての新規の情報がわずかしかないので、800円がもったいないです。10年でこれかいな。という気がします。

にもかかわらず「自然栽培」が素晴らしい農業であると主張するために、調べたらわかることさえ示さずに推論の限りをしています。

もしかしたら幻冬舎の小出し商法なのかもしれず、非常に癪なので、この『すごい畑のすごい土』に書かれてあった具体的な情報と、おそらく将来出てくるであろう情報を推測して、私見ながら現時点で明らかなことと、明らかにすべきことを書いておきます。

『すごい畑のすごい土』であきらかになったこと

  • 木村さんのりんご園内の昆虫の種数が、よそのりんご園より多い(統計処理なし)
  • 木村さんのりんご園の下生えの種数が、よそのりんご園の倍(統計処理なし)
  • 木村さんのりんご園の窒素含有量は、よそのりんご園より多い(統計勝利なし)
  • 木村さんのりんご園の土壌中の微生物料は、よそのりんご園より多い(統計処理なし)
  • 木村さんのりんご園のりんごの葉は、病害や虫害にあっても穴が開くだけで落葉することケースが少ない
統計処理がなというのは、どういったサンプリングをしたのかという記述がない上に、経年変化についての情報がないということです。

推論がされたところ

  • 土壌中の微生物が多いので、窒素が植物に使用されやすい形にされやすいだろうから、収量が落ちない
  • 無農薬だと植物本来の抵抗性が高まって病気になりにくいだろう
  • 多様な下生えという環境によって昆虫の多様性が高まっただろうから、害虫と益虫のバランスが収穫に適するレベルで保たれているのだろう
  • この平衡状態のためには慣行栽培や有機栽培ではなく木村式の自然栽培が適しているのだろう
いろいろ残念ですねえ。本文中に植物栽培には窒素リン酸カリが必要です、と言っておきながら、無施肥で営農が可能である理由として多少なりとも明らかにしたのは窒素だけというのは非常に中途半端です。しかも、多い理由を証明するのではなく、推測で済ませていますし、窒素が多くても他の農園より小ぶりで甘さが控えめな理由もコメントしません。十年調査しているのだとしたらなおさら、なんらかの方法で検証する必要があると思います。

まあわたしなら土壌分析はするし、鳥類の糞によるリン酸・カリウムの供給を計測するか、少なくともその代替指標として、鳥の訪問数と滞在時間を計測し、昆虫の種数との関係を指摘しようと思います。たとえ相関が得られなくても有益な情報だと思います。

また杉山氏は、虫と雑草の種数の多さを代替指標とすることで、生物間相互作用の豊かさであるとし、ハダニなどの害虫の被害が抑制されたことを主張しようとしていますが、全く説得的ではありません。きちんと計測して、どのような水準で平衡状態にあるのかを示さない限り、推測できると言われても納得できるものではありません。 病気についていえば、散布している希釈酢とワサビ資材の影響を検証せず、なんとかなっているとか書かれていてもどうしようもありません。なにかを調べた痕跡もなく推測されても、評価を下げるだけです。

そしてですが、そもそも木村さんの農場がどのような環境なのかよくわかりません。谷筋にあるのか、尾根にあるのか、平坦なのか、気温・湿度・地下水・降水量の年間推移といった基本中の基本がないまま素晴らしい、とか言われても何が指標になり得るのかよくわからないのです。

 木村さんの自然栽培はお弟子さんが再現している、あるいはりんご以外の作物がつくれているから再現性のある農法だ、という主張をする前に、大学の農場なり、放置農場を借り受けて再現実験なりをするのが科学者としての勤めではないか?そのように強く思い、移動のおともにと買った本書は実家に放置してきました。